The Chosen and the Beautiful
“The Chosen and the Beautiful” by Nghi Vo, 2021
2021年『華麗なるギャッツビー』の著作権保護期間が切れた。関連作品が多数出版された年だった。本作はギャッツビーの物語を、ナレーターのニック・キャラウェイの女友達でプロゴルファーのジョーダン・ベイカーの視点から語りなおした。
原作でジョーダン・ベイカーはイギリス系アメリカ人だった。本作では幼少期にトンキン(旧ハノイ)でアメリカ人夫婦の養子になったベトナム系アメリカ人という設定に変えている。バイセクシャルでもありデイジー・ブキャナンと親密な関係を持つ。切り紙人形につかの間の命を吹き込む幻術を使うという、マジックリアリズム設定もある。
金持ちで教育があるジョーダンは社交界の花だ。トム・ブキャナンやその従妹のニックと対等なつきあいをしている。アジアンビューティの彼女は白人社会に咲くエキゾチックな花なのだ。しかしその小さな世界を一歩でも出ればアジア系女性に対する扱いは冷淡なものだった。
『華麗なるギャッツビー』の物語が原作通りに進行する。読者はこれから何が起きるのか、誰がどんなセリフを言うのか知っている。バイセクシュアルのジョーダンはニックとデイジーと関係を持つので、原作に書かれなかった登場人物たちの一面が明かされる。
ジョーダンは原作でギャッツビーとデイジーの再会を取り持つ役割を果たした。悲劇に至るプロセスの真相をのぞける絶妙な立ち位置にいる。ンギ・ヴォーが新たな語り手としてトムでもマートルでもなくジョーダンを選んだのは大正解だった。別の視点から原作を楽しむファン文学として素晴らしい完成度になった。
華やかで退廃的な原作の世界観が魅力的過ぎて、ヴォーが創作したジョーダンの物語はインパクトがやや弱い。アジア人化、クィア化、幻術使い化を同時にやったのは明らかにいじりすぎだ。クィア化することでデイジーとの関係を作るというアイデアは成功しているが、アジア人化と魔女化は中途半端に終わった。
失敗した部分はあるもののそれは原作の魅力を壊すものではない。華麗なるギャッツビーの熱心なファンにおすすめだ。有名なシーンがそのまま再現されるので最後まで飽きずに読める。あの素晴らしいギャッツビーをもう一度。