Paper Towns

卒業式の季節に。おすすめは『ペーパータウン』Paper Towns by John Green, 2008 です。

映画にもなったジョン・グリーンの青春卒業小説(映画は見てないけれども…)。少年少女が大人になる瞬間。『アラスカを追いかけて』並みに良い。★★★★。

フロリダ郊外に住む高校3年のクエンティンは隣の家のマーゴと幼馴染みだ。ふたりは幼いころは仲が良かった。公園で一緒に遊んでいるときに死体を発見した思い出を共有している。でも最近のマーゴは学園の女王として君臨し、カースト下位のクエンティンの存在など忘れているかのようだった。

卒業間近の深夜、マーゴがクエンティンの部屋へ窓から入ってくる。朝までに15個やることがあるので車を貸してほしい、できれば運転してほしいとクエンティンに頼む。2人は、マーゴを裏切った友達に復讐をするツアーに出発し、狂乱の一夜を体験する。マーゴとの関係の進展に喜びを隠せないクエンティンだったが、翌日マーゴは家出をして姿を消す。クエンティンはマーゴが残した意味深な手がかりを辿り彼女の居場所を探す。

第一部はマーゴとクエンティンの一夜のドライブ、第二部はマーゴの居場所の謎とき、第三部はクエンティンと仲間たちがマーゴを探す長距離ドライブ。無謀に車を走らせる。青春の疾走感が魅力だ。

タイトルの「ペーパータウン」とは地図製作者が、著作権保護のために、地図上に描いた架空の町のこと。そこには何もない。しかし地図を見た人がそこを訪れる。店を始める人がいる。架空の町が実体化してしまうことが本当にあったそうだ。

高校生が思い描く人生の地図にはペーパータウンが散らばっている。恋人、大学、就職、結婚、家族、すべてがまだ存在しない。そこに向かい、たどり着くと、理想と現実の違いを知って感動したり、幻滅したりする。子供が大人になる瞬間を見事にとらえている。スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』を強く意識して書かれているが、もっと現代的でビタースイートなラストが忘れがたい。

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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