The Philosophy of Modern Song

最高のコーヒーテーブルブックは、ボブ・ディランの”The Philosophy of Modern Song”だ。2016年ノーベル賞受賞後初の本であり、ディランが1950~1970代を中心に66曲の懐メロを選んで評論した。それぞれの楽曲に関連して選ばれた写真も充実している。YoutubeやSpotifyで曲を再生させながらディランのエッセイを読んでいると1時間、2時間がすぐ過ぎてしまう。

取り上げるアーティストは多彩で、ウィリー・ネルソン、ピート・シガーのようなフォーク、イーグルス、フー、グレイトフルデッドのようなロック、ハンク・ウィリアムス、ジョニー・キャッシュのようなカントリー、ペリー・コモやビング・クロスビーのようなポップス、エルビス・プレスリーやフランク・シナトラのような大スター、そしてR&Bやパンク、カントリーブルースやブルーグラスもある。次に何が出てくるのかページをめくるのが楽しい。

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Amstrads and Ataris: UK Home Computers in the 1980s

1980年代のイギリスにおけるマイコンブームの代表的機種と企業を紹介する懐古趣味のガイド。アメリカや日本とは少し違う80年台がある。日本では実機を目にすることがほぼなかったが、雑誌で憧れの目で見た海外の名機たちが蘇る。写真もたっぷりある。

Apple社のApple II、Atariの2600、CommodoreのC64、Amigaなどの世界中で売れた機種と企業も出てくるが、それらの企業は他の本でもよく紹介されている。この本が詳しいのはイギリス国内で高いシェアを持っていたAcorn社、Sinclair社、そしてAmstrad社だ。

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Commodore: A Company on the Edge

パーソナルコンピュータの黎明期は、歴史修正主義者によって、アップルやマイクロソフトやIBMが中心だったかのように不当に書き換えられてしまったが、最初のパソコンはコモドールが作ったし、普及させたのもコモドールである、という渾身の反撃。西和彦も岩田聡も、コモドール日本支社のオフィスにたむろする”グルーピー”に過ぎなかった。

この本はコモドール社という今は亡き会社のドキュメンタリだが、80年代のコンピュータ草創期の貴重な証言を多く含んでいる。暴君ジャック・トラミエルと天才チャック・ペドルを中心に同社の黄金時代が細部まで丁寧に書かれている。ドラマチックで面白すぎ。★★★★★。

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Whole Earth: The Many Lives of Stewart Brand

『Stay Hungry, Stay Foolish』のスチュアート・ブランドの評伝が出た。作家ジョン・マルコフが長期間の本人インタビューをもとに書き上げたオフィシャルで決定版的なバイオグラフィーになっている。デジタル系カウンターカルチャーの源流を知る、思ったよりも曲がりくねった旅。副題は”The Many Lives of Stewart Brand”。読んだ後訳すとすれば『数奇な人生』かな。面白かった。

1966年、LSDでトリップしながら屋根の上に寝そべっていた時、28歳のスチュアート・ブランドは人々が地球全体(ホールアース)を撮影した写真を見れば、人類の意識が変わると考えた。NASAに地球の写真の一般公開を呼びかけた。「なぜ我々は地球全体の写真を見たことがないのか?」という質問を印刷したバッジを配布するキャンペーンを開始した。

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The Language Game: How Improvisation Created Language and Changed the World

コーネル大学の心理学教授モーテン・H・クリスチャンセン、ワーウィック大学の行動学教授ニック・チェイターが「インプロヴィゼーションが言葉を生み、世界を変えた」説を一般読者向けにわかりやすいエピソードを交えて語る。★★★★。

1769年、クック探検隊の船が食糧と水を補給するために南米大陸の末端に上陸した時、西洋人と未接触の部族と遭遇した。西洋人と原住民はまったく異なる言葉を話し、異なる文化を持っていた。コミュニケーションは不可能に思われた。

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For Who the Bell Tolls: One Man’s Quest for Grammatical Perfection

“For Whom the Bell Tolls”(『誰がために鐘は鳴る』)には現代英語から姿を消しつつある whom が使われている。そのmの字を消そうとしている表紙がすごく気になって手に取った。このmは消してもいいのか?結論としてはこのトーンではwhomが望ましい、だった。

編集者歴40年、ガーディアン紙のベテラン編集者による英文法エッセイ集。現代の文章を例にウィットとユーモアに富んだ考察で、文法解説の要点も押さえている。楽しく勉強になった。生きた英語をアップデートできる。

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The Nineties

90年代は事実上、ベルリンの壁の崩壊(89)で幕を開け、ツインタワーの崩壊(2001)で終わった。アメリカはブッシュ(父)とクリントン大統領の時代で、ニルバーナのカート・コバーンが自殺し、『タイタニック』が大ヒットし、「クイア」が生まれ、ペローが選挙を攪乱し、クリントンがセックススキャンダルを起こし、『となりのサインフェルド』を4人に1人が視聴し、そして”You’ve got mail”が1日に2700万回鳴り響いた時代だった。

必死にがんばることがカッコ悪い時代だった。

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The Awakened Brain: The New Science of Spirituality and Our Quest for an Inspired Life

リサ・ミラーは科学者であると同時にスピリチュアルの実践者でもある。科学的研究と同時に自身の体験も混ぜて語っている。だから科学の線引きが曖昧な部分がある。しかし覚醒した脳が利他主義、隣人愛、自己愛、一体感、道徳意識を喚起するという意見は納得がいった。それは現代人が宗教と一緒に失ったも美徳のリストだ。教会に行って神に祈る時の脳の状態は、マインドフルネスで得られるとの状態や、山にハイキングに行ってリラックスした時の脳の状態と同じだそうである。宗教と切り離した形で、エビデンスベースの方法論で、脳を覚醒させる方法はもっと探究すると良さそう。

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