Crossroads

Crossroads, by Jonathan Franzen, 2021

題名はあのブルースの名曲クロスロードだ:

“I went down to the crossroads, fell down on my knees

Down to the crossroads fell down on my knees

Asked the Lord above for mercy, “Take me, if you please”

1971年の冬、シカゴ郊外の架空の町ニュー・プロスペクト・タウンシップのプロテスタント教会で副牧師として働くラス・ヒルデブラントは若い同僚の牧師に人気を取られてしまい職場に居場所がないがない。家庭では妻マリアンとの関係は冷めきっていた。教区に住む未亡人と不倫を始めようとしている。同じころマリアンは精神科医に夫に隠してきた秘密を告白する。ラスと結婚する前に経験した不倫関係についてだった。

長男クレムは大学を退学してベトナムで戦う決意をしている。親にはまだ話していない。高校生の長女ベッキーは歌手志望のタナーに恋をしている。しかしタナー(表紙の男女はベッキーとタナー)には同じバンドで歌手を務める恋人がいる。次男で中学生のペリーはドラッグの売買に手を染めていたがそろそろ真人間になりたいと考えている。三男ジャドソンはまだ幼く、ペリーが面倒を見ている。

この小説は欠点だらけのヒルデブラント家の人間が、愛と信仰によって人生の危機を乗り越えていくファミリーサーガ。道徳的模範でなければならない牧師の家族が、人間的な弱さから誘惑に負けて道を踏み外す。そこから始まるレジリエンスのドラマ。ヒーローはいない。奇跡は起きない。道徳や政治的なメッセージの色合いは薄い。完璧ではない人間の生きざまに真実味が溢れる。

タイトルは1920年代に伝説のブルースマン ロバート・ジョンソンが歌い、1969年にクラプトンがカバーした名曲『クロスロード』が由来になっている。クレム、ベッキー、ペリーが所属する教会の若者サークルの名前として使われる。そしてこのサークルで起きる事件がヒルデブラント家にとっての運命の交差点となる。

1970年代のカルチャーがいっぱい登場する。この時代が好きな人にはたまらない。580ページもあるが、NHK朝の連続ドラマのようにテンポよく展開するので長くは感じなかった。キャロル・キングやジェイムス・テイラーのフォークロックが聞こえてくるこの世界にもっといたいと思った。

Crossroadsはフランゼンの構想する”A Key to All Mythologies”3部作の最初の作品。インタビューによるとヒルデブラント家の物語を3世代に渡って描く予定だという。第2部の舞台はおそらく2000年頃になる。ラスとマリオンの息子と孫の物語で9.11同時多発テロが起きるだろう。第3部はさらに次の世代が加わり2020年代か。トランプ政権を描くのだろうか。間違いなく次回作も読む。★★★★。

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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