Tokyo Junkie: 60 Years of Bright Lights and Back Alleys . . . and Baseball

今年最初の5つ星の本は、二つの東京オリンピックに挟まれた、昭和・平成60年間の回顧録。著者は日本在住81歳のジャーナリスト、ロバート・ホワイティング。英語で海外の読者向けに書かれているが、本当にこの本を読んで楽しめる読者はこの時代を生きてきた私たち日本人だ。高度経済成長期、バブルと崩壊、そして失われた30年を私たちと同じ大衆目線から見つめてきた貴重な証言者だ。ただのノスタルジーにとどまらず、一級の日本文化論としても秀逸である。★★★★★。

続きを読む

Easy to Learn, Difficult to Master: Pong, Atari, and the Dawn of the Video Game

Pongの開発者ラルフ・ベアと、アタリの創業者ノーラン・ブッシュネル.「ビデオゲームの父」の称号をめぐるライバル関係を描いたグラフィック・ノベル。先日読んだクライブ・シンクレア(シンクレア)とクリスカリー(エイコーン)の”Micromen”ライバル関係を思い出させる。

ナチスの迫害を逃れドイツからアメリカへ移住したユダヤ人であるベアはエレクトロニクスのエンジニアとして働いた。60年代に彼はテレビでゲームができると思いつき、世界初のビデオゲームと言われるPongを開発し、1972年に世界初のビデオゲーム機マグナボックス・オデッセイを世に送り出した。

続きを読む

Tokyo Rose – Zero Hour

第二次世界大戦中、日本政府は敵国アメリカ、イギリス、オーストラリアの兵士に向けてラジオ(現在のNHKワールド・ラジオ日本)で英語のプロパガンダ放送を行った。音楽と語りでホームシックや弱気を誘い士気をくじくのが狙いだった。放送には外国人捕虜や、海外で育った日本人の二世たちが強制的に動員された。とりわけ人気番組『ゼロアワー』の女性アナウンサーは連合国軍兵士に人気になり「東京ローズ」の愛称がつけられた。

続きを読む

The Philosophy of Modern Song

最高のコーヒーテーブルブックは、ボブ・ディランの”The Philosophy of Modern Song”だ。2016年ノーベル賞受賞後初の本であり、ディランが1950~1970代を中心に66曲の懐メロを選んで評論した。それぞれの楽曲に関連して選ばれた写真も充実している。YoutubeやSpotifyで曲を再生させながらディランのエッセイを読んでいると1時間、2時間がすぐ過ぎてしまう。

取り上げるアーティストは多彩で、ウィリー・ネルソン、ピート・シガーのようなフォーク、イーグルス、フー、グレイトフルデッドのようなロック、ハンク・ウィリアムス、ジョニー・キャッシュのようなカントリー、ペリー・コモやビング・クロスビーのようなポップス、エルビス・プレスリーやフランク・シナトラのような大スター、そしてR&Bやパンク、カントリーブルースやブルーグラスもある。次に何が出てくるのかページをめくるのが楽しい。

続きを読む

Amstrads and Ataris: UK Home Computers in the 1980s

1980年代のイギリスにおけるマイコンブームの代表的機種と企業を紹介する懐古趣味のガイド。アメリカや日本とは少し違う80年台がある。日本では実機を目にすることがほぼなかったが、雑誌で憧れの目で見た海外の名機たちが蘇る。写真もたっぷりある。

Apple社のApple II、Atariの2600、CommodoreのC64、Amigaなどの世界中で売れた機種と企業も出てくるが、それらの企業は他の本でもよく紹介されている。この本が詳しいのはイギリス国内で高いシェアを持っていたAcorn社、Sinclair社、そしてAmstrad社だ。

続きを読む

Making History: The Storytellers Who Shaped the Past

トルコのハリカルナッソスには立派な髭を蓄えた「歴史の父」ヘロドトスの像があるが、像を作った者がヘロドトスの容貌を知っていたわけではない。しかし歴史の父にふさわしい厳かさを備えた像は、後世の人たちのヘロドトスの印象を形作った。

歴史を作るのは誰か?政治評論家のリチャード・コーエンは、歴史を作るのは歴史学者ではなく、物語を作るのがうまかった人たちだという理論を主張し、有名な小説家、劇作家、ジャーナリスト、政治活動家、宗教活動家など、世界史上の代表的なストーリーテラー数十人の生涯を取り上げる。

ヘロドトス、マキャベリ、シェイクスピア、ヴォルテール、マルクス、シーザー、グラント将軍、チャーチル、班昭、聖書の書き手たち、ウィンストン・チャーチル、ソルジェニーチン、トニ・モリソン、ヒラリー・マンテル、ヒストリーチャンネルの解説者など古代から現代まで、わき役も含めると数百人に及び、幅広くカバーしている。

続きを読む

Commodore: A Company on the Edge

パーソナルコンピュータの黎明期は、歴史修正主義者によって、アップルやマイクロソフトやIBMが中心だったかのように不当に書き換えられてしまったが、最初のパソコンはコモドールが作ったし、普及させたのもコモドールである、という渾身の反撃。西和彦も岩田聡も、コモドール日本支社のオフィスにたむろする”グルーピー”に過ぎなかった。

この本はコモドール社という今は亡き会社のドキュメンタリだが、80年代のコンピュータ草創期の貴重な証言を多く含んでいる。暴君ジャック・トラミエルと天才チャック・ペドルを中心に同社の黄金時代が細部まで丁寧に書かれている。ドラマチックで面白すぎ。★★★★★。

続きを読む

Whole Earth: The Many Lives of Stewart Brand

『Stay Hungry, Stay Foolish』のスチュアート・ブランドの評伝が出た。作家ジョン・マルコフが長期間の本人インタビューをもとに書き上げたオフィシャルで決定版的なバイオグラフィーになっている。デジタル系カウンターカルチャーの源流を知る、思ったよりも曲がりくねった旅。副題は”The Many Lives of Stewart Brand”。読んだ後訳すとすれば『数奇な人生』かな。面白かった。

1966年、LSDでトリップしながら屋根の上に寝そべっていた時、28歳のスチュアート・ブランドは人々が地球全体(ホールアース)を撮影した写真を見れば、人類の意識が変わると考えた。NASAに地球の写真の一般公開を呼びかけた。「なぜ我々は地球全体の写真を見たことがないのか?」という質問を印刷したバッジを配布するキャンペーンを開始した。

続きを読む

The Founders: The Story of Paypal and the Entrepreneurs Who Shaped Silicon Valley

イーロン・マスクが世界をかき回す今、まさに旬なのがマスクの原点を知るこの本だ。★★★★。シリコンバレーを牛耳る「ペイパルマフィア」のすべて。この集団からTesla、Facebook、YouTube、SpaceX、Yelp、Palantir、LinkedIn等、何百もの有名ベンチャーが生まれた。

ペイパルマフィアの源流は2000年、ふたつのスタートアップの合併に始まる。

ひとつは1998年12月設立のオンライン決済サービスConfinity(ピーター・ティール マックス・レヴチン、ルーク・ノゼック)で人気PDAのPalmPilotの赤外線通信を使った送金サービスを事業としていた。PalmPilot同士の送金への特化はあまりにマニアックだった。そこでメールによる送金機能を加えたところ、オークションのeBayユーザーに大人気となり急成長した。

続きを読む

The Netanyahus: An Account of a Minor and Ultimately Even Negligible Episode in the History of a Very Famous Family

『ネタニヤフ家:ある有名な一族の歴史における些細な、そして最終的には無視できるようなエピソードの記録』”The Netanyahus: An Account of a Minor and Ultimately Even Negligible Episode in the History of a Very Famous Family” by Joshua Cohen, 2021 聴いた。ユダヤ感濃縮の暴露コメディ。

2021年度ピュリッツアー賞フィクション部門受賞作。『イスラエルの王』と呼ばれ、長く同国の顔として君臨したが、2021年に汚職で王座から引きずり降ろされたベンヤミン・ネタニヤフ元首相。彼の父親ベン=シオン・ネタニヤフは歴史学者で一時期アメリカのコーネル大学で教授を務めた。このときベンヤミンを含むネタニヤフ一家はアメリカで生活をしていた。

続きを読む

After Steve: How Apple Became a Trillion-Dollar Company and Lost Its Soul

アップルの時価総額は2011年ジョブズの死去時に約3500億ドルだったが2022年1月には約8.5倍の3兆ドルを超えた。この奇跡的成長を牽引したのがこの本の2人の主役CEOのティム・クック、CDOのジョニー・アイヴだ。アイヴが魔法と発明で需要を作り出し、クックがメソッドとプロセスでその需要を満たした。しかしジョブズとアイヴの時代と比べると「魔法よりもメソッド、完璧さよりも持続力、革命よりも改善の勝利」だった。

続きを読む

The Nineties

90年代は事実上、ベルリンの壁の崩壊(89)で幕を開け、ツインタワーの崩壊(2001)で終わった。アメリカはブッシュ(父)とクリントン大統領の時代で、ニルバーナのカート・コバーンが自殺し、『タイタニック』が大ヒットし、「クイア」が生まれ、ペローが選挙を攪乱し、クリントンがセックススキャンダルを起こし、『となりのサインフェルド』を4人に1人が視聴し、そして”You’ve got mail”が1日に2700万回鳴り響いた時代だった。

必死にがんばることがカッコ悪い時代だった。

続きを読む