The Perfect Golden Circle

「パーフェクト・ゴールデン・サークル」”The Perfect Golden Circle” by Benjamin Myers, 2022

1989年のイギリスで、ミュージシャン崩れでおしゃべりなレッドボーンと、フォークランド紛争の退役軍人カルバートの2人は、熱い夏の週末、夜中に車で広大な畑のあるエリアへでかけてミステリーサークルを作り続ける。

綿密なリサーチで場所を選定し、斬新なデザインで人を驚かすサークルを作る。2人は暗黙のルールに従っている。同じ場所には2度と行かない。畑を破壊してはいけない、もし捕まったら黙秘を貫く、デザイン案などのメモは破棄する、絶対にこのことを人に話してはならない、酒は一杯か二杯までにする、など。

彼らはそれぞれのミステリーサークルに名前をつける。Alton Kellett Pathway、White Whattle Keys、Trapping St Edmunds Solstice Pendulum、Longbarrow Whale、Bracklebury Dodman、High Bassett Butter Barrel Whirlpool…新聞や雑誌に自分達の作ったミステリーサークルがどんな名前で報道されるかを楽しみにしている。彼らがつけた名前に近いと喜ぶ。

彼らは同じことはしたくない。サークルのデザインは、毎週、より大きく複雑なものに進化していかなければならない。時には哲学的になる。自然界には完全な円は存在しない。だから彼らは畑に完璧なゴールデンサークルを描くことはできない。完璧な円は常に創造の世界の中だけにあるのだ。彼らはその理想を追求している。

各章は毎週のミステリーサークル作りの顛末で最後にそれを報道するメディアの記事で終わる。秘密の創作活動をする2人は友情を温めていき、カルバートの戦争のトラウマが癒やされていく。深夜の秘密活動に時々小さなスリルがあるが、全体としては静かに優しく時間が流れる。イギリスの農村部の夏の風景の描写が美しい。