The Caesars Palace Coup: How a Billionaire Brawl Over the Famous Casino Exposed the Power and Greed of Wall Street”

シーザース・パレスのクーデター。有名カジノをめぐる億万長者の争いは、いかにしてウォール街の権力と欲望を露わにしたのか。

“The Caesars Palace Coup: How a Billionaire Brawl Over the Famous Casino Exposed the Power and Greed of Wall Street” by Sujeet Indap, Max Frumes, 2022

巨大な債務を抱え倒産寸前のカジノ企業に、ハゲタカファンドや熟練の投資家、法律家、プロ経営者たちが群がる。複雑な金融のテクニックを駆使して、経営を再建し、大儲けを企む人々のスリリングなドキュメンタリー。

ラスベガスの真ん中にあって少し特別感が漂うシーザーズパレス。古代ローマ風の豪華な外観のフラッグシップホテルの他、老舗のフラミンゴ、パリス、リオなど幾つものホテルを傘下に持ち、MGMとならぶベガスの一大勢力だ。

この本はそのシーサーズパレスの話だが、主役はシーサーズパレスの経営者ではなく、この企業グループに投資をしたり、融資をしたり、コンサルティングをしている数十人の金融ゴロたちだ。アポログローバルエンタテイメントとTPGキャピタルという大株主の投資家がキープレイヤーになる。

シーサーズパレスは、持株会社の下に多重構造の統括会社、事業会社を保有し、しばしば再編成する。投融資には回収順位が設定されており、グループ内の取引関係は極めて複雑で、何をすると誰が儲かるのか、一見してわかりにくい。ハゲタカたちはこの複雑さを利用して、他のステイクホルダーたちと緊張関係を保ちながら勝ち逃げを企む。

企業が儲かっていないのに関係者が儲かるのは不思議だが、金融にはあの手この手がある。例えば企業は業績が低迷していても債権を発行できる。ジャンク債、ハイイールド債と呼ばれる、低迷企業の債権は、リスクが高い、代わりに利率も高い。低迷企業を買収してしまい、一旦非上場にして、お化粧をし、再度上場させるのもありだ。シーサースパレスもこの手を使った。子会社を作り、親会社が子会社に優良資産を売却して、一時的に売り上げを作る、というウルトラCもあった。

あの手この手のオンパレード。当然、法律ギリギリなので裁判沙汰にもなる。だが彼らには訴訟は日常茶飯事であり、動じない。法務スタッフの活躍場所になる。

シーサーズパレスが老舗で肥大化したカジノ産業だったことも、ハゲタカたちには好条件だった。カジノビジネスは博打ではない。王道がある。コンサルを入れて経営を近代化、合理化すれば、比較的簡単に一時浮上できる。TPGはシーサーズパレスの業務を分析し、女性客室係のシーツの取り替えや、スタッフの休憩に無駄を発見し、男性のシーツ取替専門スタッフを入れたり、休憩室を分散させることで効率化を図った。

ラスベガスのホテルグループは、頻繁に倒産して経営者が変わっている。シーザーズパレスは2015年に破産、チャプターイレブンを申請した。破綻してもホテルが無くなるわけではない。だから一般にはわかりにくいが、巨大ホテルの裏側では、こうしたマネーゲームのドラマが毎日起きているらしい。彼らにとっては新しいゲームの始まりに過ぎない。

このハゲタカたちの正体は一流大学を出たウォール・ストリートのエリートだったりする。優秀な人材がこれで良いのかとも思うが、彼らが全力で私利私欲のゲームをする結果として、ホテルのサービスが進化している面がある。ラスベガスのカジノという箱は、人の生死が関わるモノではない虚飾の世界だから、マネーゲームの舞台としては悪くはないのかも。

登場人物が多く、金融ジャーゴンと複雑な取引が多すぎて、正直、やっていることの半分くらいしか理解できなかったが、グローバルでスケールの大きなハゲタカたちの実態を知ることができて、かなり面白かった。

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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