Oh William!

“Oh William!” by Elizabeth Strout, 2021

シリーズ二度目のブッカー賞ノミネートで今回はショートリストに進んでいる。エリザベス・ストラウトは英語が読みやすいのでピュリッツアー賞の「オリーブ・キタリッジの生活」以降、ほぼ全作読んできた。本作はあの人間ドラマの名手が、人間を理解するとはどういうことかというテーマに真正面から挑んだ。

60代の作家ルーシー・バートンは夫デービッドに先立たれた。前夫ウィリアムとの間には二人の娘がいて、今もよく連絡を取っている。70代のウィリアムはルーシーと別れた後に再婚した妻に去られ、一人で暮らしている。ルーシーとウィリアムは今更復縁する意思はなかったが、互いの人生のよき理解者だと考えていた。ある日ウィリアムがオンラインで家系を調べていると、会ったことがない妹がいることが判明する。ウィリアムはその妹を探す旅にルーシーを誘う。

ことあるごとに”Oh William!”とルーシーが言う。ルーシーは喜怒哀楽のさまざまな感情を込めて前夫の名前を呼ぶ。穏やかに日々の出来事を報告する時のOh William!、すべてわかっていると思っていたのに新しい側面を発見して驚くOh William!、悲しいことがあったときに我知らずつぶやくOh William!、幻滅したときのOh William!。何十種類のOh!で二人はつながっている。二人の関係は簡単に定義できる単純なものではない。

“Oh William!”は”My Name Is Lucy Barton”(2016)と”Anything Is Possible”(2017)に続くアムガッシュ・シリーズの第3作にあたる。前の2作はルーシーが有名な作家になる前の中年時代を描いていた。前の2作のエピソードが頻出するので、本作を読む前に読んだ方がいい。

エリザベス・ストラウトの魅力というのは、欠点を持つ人間を愛情深く描く姿勢と、難しい言葉や言い回しを避けた気取らない文章の2つだと思う。NHKの朝の連続ドラマみたいに、安心してみていられて、しかもしっかり感動がある小説だ。そして第1作、第2作、第3作と、どんどん展開がダイナミックになっている(第4作Lucy by the Seaが今年出た)

政治・社会的メッセージが薄く、登場人物が白人ばかりで、単体で読めなくはないがシリーズの一部である、という点がブッカー賞に不利な要因だと思う。私は四つ星をつける。★★★★。

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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