Last Night at the Telegraph Club

“Last Night at the Telegraph Club” by Malinda Lo, 2021

『昨夜テレグラフクラブで』

これはマジで感動した。2021年度全米図書賞(青少年文学部門)受賞作。大人が読んでも5つ星のラブストーリー。サンフランシスコ好きな人にもおすすめ。★★★★★。

1954年のサンフランシスコのチャイナタウン。17歳の中国系アメリカ人リリー・フーは、数学が得意でロケットエンジニアになる夢を抱いている。ある日リリーはレズビアン・バー「テレグラフ・クラブ」の広告を目にした。男装の麗人トミー・アンドリュースの姿に奇妙に惹かれる自分に気がついた。リリーは数学のクラスではじめて友達になった白人キャサリンもクラブに興味をがあることを知る。ふたりはIDを偽造し、深夜に家を抜け出しクラブに忍び込んだ。そこでは外では許されない同性愛者たちのめくるめく世界が広がっていた。

同性愛者であることを自覚したキャサリンとリリーは恋に落ちる。当時、同性愛は医学的には精神異常とされ、法的には違法行為だった。ましてや異人種間の女性カップルなどありえない。さらにマッカーシーによる赤狩りの最中であり、多くの中国人移民が共産主義者の疑いで国外追放されていた。ふたりの恋は絶対に隠し通さなければならない秘密だった。しかし、ある事件がきっかけで彼女たちに絶体絶命の危機が訪れる。

この小説はまず物語世界の臨場感が素晴らしい。時代考証に基づき綿密に再現された1954年のチャイナタウンは音やにおいが感じれれるようにリアルだ。マッカーシズムに揺れるコミュニティの様子や蒋介石夫人のアメリカ訪問などの歴史的出来事が盛り込まれている。白人がアジア人のことをorientalと呼んだり、中国系アメリカ人の出身による英語の違いまで再現している。猥雑なテレグラフクラブも実在の店がモデルだ。巻末の解説では写真も交えて物語の背景が詳細に語られている。

そして性別と人種を超越するリリーとキャサリンの純愛が胸を打つ。同性愛を自覚する前の二人はどんな十代男女よりもナイーブで無垢な関係だ。ファーストキスのハードルの高さ、それを飛び越える時の官能性は異性愛ラブストーリーをはるかに凌ぐ。ヤングアダルト文学でこんなに官能的でいいのかと疑問に思ってしまうほどだ。でもふたりは脱いでいさえいないのだから、いいのだけれど。

リリーとキャサリンに関係する人物が登場するコンパニオンブック(続編?)Called A Scatter of Lightが今年出版される。新作冒頭がこの本の巻末に収録されていた。(次回作の冒頭を巻末にプレビュー収録することが英語の本ではよく見る。日本ではほぼ見ないな。)

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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