Olga Dies Dreaming
“Olga Dies Dreaming” by Xóchitl González, 2022
2017年の調査によると約半数のアメリカ人がプエルトリコ人がアメリカ国民だと知らなかった。プエルトリコはアメリカ合衆国の自治的・未編入領域のコモンウェルスだ。彼らは所得税を支払う義務がない代わりに大統領選の投票権を持たない。トランプは一時期、プエルトリコの売却を検討していたと言われる。そういう独特な立場を生きる、あるプエルトリコ人家族の激しく華々しい確執のドラマ。
39歳のオルガ・アセベドはニューヨークの超富裕層向けウェデイングプランナーとして活躍している。兄のプリエト・アセベドはブルックリンのラテン系住民を支持基盤とする人気の下院議員である。オルガは富と名声を、プリエトは権力と大義を求めて、成功したアメリカンドリームの体現者だ。
オルガとプリエトの父親はふたりが子供の頃、ヘロイン中毒になりエイズで死んだ。母親ブランカはオルガが12歳の時、プエルトリコ独立の革命運動に身を投じるため子供たちを捨てた。オルガとプリエトは祖母に育てられたのだった。27年間も疎遠の仲の母親からは、時折、ふたりに手紙を送った。それは親子の情愛を思わせる言葉ではなく、アメリカの植民地主義と彼らの見掛け上の成功への批判と、革命活動への共鳴を呼びかけるアジテーションだった。
2017年にプエルトリコを史上最大のハリケーン・マリアが襲った。同国は壊滅的な打撃を受けたがアメリカ政府の救援は遅かった。現地の革命運動の首領ブランカはオルガとプリエトにある協力を呼び掛ける。オルガとプリエトは故郷プエルトリコを助けたいと思った。しかしブランカの求める協力に応じるには、ふたりに大きな犠牲とリスクが伴うのだった。
オルガ、プリエト、ブランカは自由を求める闘士だ。しかし自由の意味と戦い方が大きく異なる。暴力革命を肯定しフィデル・カストロやチェ・ゲバラのような純粋さを持つブランカの生き方はまっすぐだ。一方アメリカのしがらみの中にいるオルガとプリエトの人生は複雑だ。力を持つために妥協しなければならない。違法なことにも手を染めなければならない。ブランカはそんな子供たちを堕落していると叱り飛ばす。
Olga Dies Dreamingは”プエルトリコ文学”だ。この作品はプエルトリコの成り立ちと歴史を知ることができるようにデザインされている。プエルトリコ人の心情は日本で言えば昔の沖縄の人間の心情に近いのだと思う。疎外感を共有し連帯感で結ばれている。そしてゴンザレスはラテン系の名前やスペイン語を頻繁に使う。エキゾチックな雰囲気が漂う文体はラテンのリズムで読むのが楽しい。
登場人物の3人とも金持ちで華やかな世界に生きている。Huluがドラマを制作中だそうだが、かなり華やかなドラマになるだろう。カミラ・カベロがラテンのノリで主題歌歌ったらぴったり。彼女はハバナ出身だけれども。