The End of Men

“The End of Men” by Christina Sweeney-Baird, 2021

2025年、男性のみに感染する致死性の感染症がスコットランドで発見された。現地の医師アマンダ・マクリーンは即座に警告を発したがヒステリーだとして無視された。瞬く間にウィルスは世界へ広がり最悪のパンデミックが発生した。世界の男性の90%が死亡した。世界人口は半分になり女性社会になる。

物語は第一発見者のアマンダ、社会歴史学者のキャサリン、諜報機関アナリストのドーン、ワクチンの研究者のエリザベスら、複数の女性の視点で語られる。パンデミックの始まりから収束までの時系列の報告というスタイルは、ゾンビ小説「WORLD WAR Z」に強い影響を受けたものだ(あとがきで著者がそう告白している)。

男性がいなくなると社会はどう変わるのかのシミュレーション小説。

男性が多数を占める警察や軍隊が機能不全に陥る。内乱が起きて政治が変わる。世界中で男性が担ってきたエッセンシャルワーカーが不足し社会と経済は機能不全に陥る。企業や組織のガラスの天井が消え、女性たちがトップを独占する。異性の結婚は希少になり人工授精で子供を持つ権利は抽選になる。

iPhoneの新型は女性の手に合わせて小型化し、乱暴な運転が減って交通事故が減る。ゲイの自殺とレズビアンが急増する。そこで女性同士をマッチングするアプリの起業家が登場する。男性パートナーを見つけることがほぼ不可能な世界で、女性たちは同性パートナーを求めるのが普通になる。クリスティーナ・スウィーニー・ベアードの想像力は、女性社会のあらゆる側面を描写していく。

男性9割死亡というシニカルな設定だが男性嫌悪に満ちた作品というわけではない。登場人物は夫や息子を亡くして絶望し、ずっと喪失を嘆き悲しんでいる。女性ドミナントの世界になってもすべてが良くなるようには描かれていない。男性に搾取されなくなったとしても女性同士の争いがある。男性が果たしていたポジティブな役割も少しだけ見える。男性でも楽しんで読める作品だ。叱られている感じはしなかった。

著者はこれをパンデミック前に書き上げたそうだが、ウィルスのアウトブレイクは今起きている状況と重なることが多く、物語に入っていきやすい。数ページの短い章で構成されているので読みやすい。女は1日100語以上話せない超男尊女卑社会を描いた『Vox』(2018)、女性が電撃超能力を持ち男性を支配する『The Power』(2017)などを読んだ人はこれもぜひ。

まあ、なんにせよ男性に未来はないんだな。

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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