Easy to Learn, Difficult to Master: Pong, Atari, and the Dawn of the Video Game
『学ぶのは簡単、マスターするのは難しい。ポン、アタリ、そしてビデオゲームの夜明け』 Easy to Learn, Difficult to Master: Pong, Atari, and the Dawn of the Video Gameby David Kushner, Koren Shadmi, 2022
Pongの開発者ラルフ・ベアと、アタリの創業者ノーラン・ブッシュネル.「ビデオゲームの父」の称号をめぐるライバル関係を描いたグラフィック・ノベル。先日読んだクライブ・シンクレア(シンクレア)とクリスカリー(エイコーン)の”Micromen”ライバル関係を思い出させる。
ナチスの迫害を逃れドイツからアメリカへ移住したユダヤ人であるベアはエレクトロニクスのエンジニアとして働いた。60年代に彼はテレビでゲームができると思いつき、世界初のビデオゲームと言われるPongを開発し、1972年に世界初のビデオゲーム機マグナボックス・オデッセイを世に送り出した。
アタリ創業直後のブッシュネルはオデッセイの内覧会でPongのアイデアを盗み、スコアをつけるなど改良してアーケード機としてリリースした。市場が支持したのはベアのオリジナルではなく、より面白いアタリのPongだった。ベアはブッシュネルを訴えたが、ビデオゲームを普及させたのはアタリだという評価が定まった。
ブッシュネルが語ったゲームの極意が”Easy to Learn, Difficult to Master”。祭りのダーツゲームの屋台の経営から学んだ。プレイヤー視点だけでなく、ゲームを売る側の視点も感じられる。マスターされてはダーツ屋は儲からない。やるたびに上手くなるが、決して百発百中にならないような仕組みをブッシュネルは理想とした。
ブッシュネルのアタリはPongの後に、アーケード市場でブロック崩しを大ヒットさせる。このブロック崩しの開発に関わったのがアップルを創業するスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックで、二人のエピソードも描かれている。そして一方、Pongの栄誉を奪われたベアは、電子ゲームのサイモンのアイデアを、アタリから盗んで大ヒットさせる。
IBMとインテルのお堅いスーツ族のシリコンバレーが、ハイツアシュベリーのヒッピーとスタンフォードの頭脳でクリエイティブな世界に変容していく。その真っ只中で二人は戦った。時代の熱気が伝わってくるグラフィックノベルだ。