Amstrads and Ataris: UK Home Computers in the 1980s
『アムストラッドとアタリ:イギリスの80年代マイコン』
“Amstrads and Ataris: UK Home Computers in the 1980s” by Andrew Morten, 2022
1980年代のイギリスにおけるマイコンブームの代表的機種と企業を紹介する懐古趣味のガイド。アメリカや日本とは少し違う80年台がある。日本では実機を目にすることがほぼなかったが、雑誌で憧れの目で見た海外の名機たちが蘇る。写真もたっぷりある。
Apple社のApple II、Atariの2600、CommodoreのC64、Amigaなどの世界中で売れた機種と企業も出てくるが、それらの企業は他の本でもよく紹介されている。この本が詳しいのはイギリス国内で高いシェアを持っていたAcorn社、Sinclair社、そしてAmstrad社だ。
英国製マイコンの源流は、起業家クライブ・シンクレアが興したSinclair Researchにある。1961年にオーディオから始まり、次に小型の計算機に取り組み、1970年台にマイコンの開発を始めた。シンクレアは何でも小型化すること、低価格にすることが得意だった。1980年に初めて販売した完成品のマイコンZ80は、7インチX8.5インチの小さな筐体にゴム製のキーボードを載せたコンパクトな仕様でリリースされた。性能はそれほどよくないが低価格で、10万台が売れた。この後継のZX81は150万台が売れた。そして1982年にZX Spectrumが出て500万台の大ヒットになりCommodore 64と人気を争った。
Sinclair社で働いていたエンジニアのクリス・カリーが起こしたのがAcorn社で、1980年に発売したAcorn AtomはZX80に似た回路を持つ低価格のコンピュータだった。評判はほどほどだった。だが1981年に、国営放送BBCが”The Mighty Micro”というコンピュータ革命を特集するテレビ番組を開始する。BBCは同時にComputer Literacy Projectをはじめ、教育用のマイコン開発を、Sinclair社とAcorn社に提案させた。結果としてAcornがこのプロジェクトを受注し、BBC Microを発売する。日本ならNHK Microでテレビ番組と連動してマイコンが出されたようなものであり、売れないわけがなく、教育機関を中心に150万台が売れた。
商才のあるアラン・マイケル・シュガーが21歳で興したAmstrad社は、射出成型技術と極東から輸入した部品でコンピュータを低コストで作った。1983年に発表したCPC 464は200万台が売れてCommodore 64とZX Spectrumの直接競合になった。1986年にはクリーブシンクレアはIT産業における功績によりナイトの爵位を授与されるが、会社の業績は低迷しており、Sinclair社はAmstrad社に買収された。その後、シュガーはAmstrad社を売却するが、その後も経営者として成功し、今も世界の大富豪の一人である。
レトロPCのカタログだが、その背景に人間関係が見えてくるのが面白い。2009年にBBCはクライブ・シンクレアとクリス・カリーのライバル関係を”Micro Men”( https://www.youtube.com/watch?v=sIcAyFVK0gE )でドラマ化した。BBCのコンピュータ番組 The Computer Programme ( https://www.youtube.com/playlist?list=PLOtimvwAoYtnCtLiLspq_Gnng1XusYwPU ) もオンラインで視聴可能。