Xi Jinping: The Most Powerful Man in the World

『習近平』”Xi Jinping: The Most Powerful Man in the World” by Stefan Aust, Adrian Geiges 2022

「世界で最も権力のある男」習近平のまとまった評伝本はほとんどない。今年英訳が出たこの本は、ドイツの2人のジャーナリストによって書かれている。巻末に示される数百件の資料調査をベースにしておりスクープや独占インタビューのような要素はないが、習近平と中国の今が客観的かつ包括的に説明されている。読みごたえがあった。★★★★。

習近平の父親は中国建国の頃の有力な政治家だったが、文化大革命で失脚し迫害される立場になった。十数年後に名誉回復されるまで息子の習近平も苦渋の日々を過ごした。しかし彼は、このような状況でも国家や毛沢東に反逆心を持つのではなく、むしろ国家に認められる存在になりたいと考えた。公言しないが毛沢東の影響を受けている。

習近平は、1979年に駐イギリス大使の娘と結婚するが離婚している。1987年に現在の妻で国民的歌姫(美空ひばりみたい?)の彭麗媛と結婚した。当初は妻の方が有名であり、習近平は「彭麗媛の夫」として知られていたという。習近平は知事として地方から官僚の腐敗、汚職を追放することで出世を重ね、同時にライバルを追い落とした。

「多くの中国人は本当に習近平に熱狂的だ。国民は彼の腐敗との戦いを支持している。彼が初めて妻を伴って公の場に現れた初めての中国の代表だった。その妻がとても親しみが持てて魅力的な人物であることに好感を持っている。党の指導者が質素な服を着て、道端の簡素な店で食事をしているテレビの映像を見て、前代未聞だと驚いている。もちろん、それはただの演出なのだが。」

この本は「事実だけから真実を求める」姿勢で書かれている。書き方には中国を賛美する意図も、批判する意図もない。習近平の子供時代、家族、汚職との戦い、毛沢東の影響、儒教精神と共産主義の融和、5GやTIKTOKなどテクノロジーとの関係、環境問題の取り組み、ニューシルクロード計画、国内の言論統制、外交政策など様々な観点から、躍進する大国とその指導者の光と影を明らかにした。

初版はドイツ語版で2021年出版だが、2022年出版の英語版では改訂されていてコロナ以降の記述も追加されている。数時間で中国の全体像をバランスよく知りたい人におすすめ。それにしても目立つ表紙だったな。

中国語と英語の対応表:

毛沢東 Mao Zedong

鄧小平 Deng Xiaoping

趙紫陽 Zhao Ziyang

江沢民 Jiang Zemin

胡錦濤 Hu Jintao

習近平 Xi Jinping

彭麗媛 Peng Liyuan

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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