Himawari House

“Himawari House” by Harmony Becker, 2021

ものすごくよかった。5つ星の傑作ヤングアダルト向けグラフィックノベル。留学生やその支援、英語に関係する人に特におすすめ。★★★★★。

アメリカで育ったので日本語がうまく話せないナオ、自由を求めて日本にやってきた韓国人のヘジョン、英語が得意なシンガポールからきたティナ。3人はシェアハウスのひまわりハウスで日本人のシンイチとマサキと共同生活を始める。受験、学校、アルバイト、友情、恋愛、遠く離れた家族の絆…日本に住む留学生たちの青春が日本の漫画のタッチで描かれている。でも日本人漫画家には決して描けない内容だ。

このグラフィックノベルの最大の特徴は3つの言語が入り乱れること。登場人物が話す英語、日本語、韓国語がそのままフキダシの中に使われる(すべてのセリフに英訳がついている)。ナオが話すアメリカ英語、ティナが話すシングリッシュ、ヘジュンの韓国アクセントの英語、シンイチとマサキが話すカタカナ英語がそのままの発音で表記される。

速すぎる日本語のシーンでは3人が聞き取れない単語のインクが滲んで読めなくなる。大体わかっているのだが部分的にぼやけている外国語の理解。アジア系の顔の彼女たちだが一語でもおかしな日本語の発音をしたら外国人だとばれてしまう緊張感。留学生たちが生きている日常をリアルに体験できる。

日本が好きでやってきた3人。だが滞在が長くなると不満も感じる。ナオは日本人男子の愛情表現が理解できない。ヘジョンは日本の韓国料理にまったく満足できない。ティナはアルバイト先での外国人差別に我慢ができない。しかし日本語が上手になり、人間関係ができるにつれて次第に全員が日本的にもなっていく。

ひまわりハウスに暮らす5人の共通語は英語だが、次第に3か国語が混じって彼ら自身が何語だかわからない言語になっていく。言語の融合は彼らの心が溶け合った証拠でもあった。ナオの帰国が迫る頃には、クールな性格のシンイチが率直さに呆れるほど、5人は赤裸々に互いの考えを打ち明けるようになっていた。

著者のハーモニー・ベッカーはスタートレック出演俳優ジョージ・タケイが日系人強制収容所を描いたベストセラーのグラフィックノベル『They Called Us Enemy 〈敵〉と呼ばれても 』のイラストレーターだ。ベッカーは母親が日本人の日系アメリカ人で韓国に1年半住んだこともある。言葉と文化に敏感な作家だ。繊細でレスペクトのある異文化の表現がこの本の魅力だ。

こうした作品で英語のアクセントを強調すると差別的表現と受け取られる危険性があるが、ベッカーは巻末の「本書におけるアクセント使用について」で、アクセントはふたつ以上の言語を話せる証なのだから恥じるのではなく誇りにすべきだと書いている。こんなに説得力があって力強いアクセント肯定は聞いたことがない。英語学習者が心から勇気づけられる本だ。

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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