Tokyo Rose – Zero Hour
『東京ローズ ゼロアワー:ある日系アメリカ人女性の迫害と戦後の最終的な救済』グラフィックノベル
Tokyo Rose – Zero Hour (A Graphic Novel): A Japanese American Woman’s Persecution and Ultimate Redemption after World War II
by Andre R. Frattino, Kate Kasenow (Illustrator), 2022
第二次世界大戦中、日本政府は敵国アメリカ、イギリス、オーストラリアの兵士に向けてラジオ(現在のNHKワールド・ラジオ日本)で英語のプロパガンダ放送を行った。音楽と語りでホームシックや弱気を誘い士気をくじくのが狙いだった。放送には外国人捕虜や、海外で育った日本人の二世たちが強制的に動員された。とりわけ人気番組『ゼロアワー』の女性アナウンサーは連合国軍兵士に人気になり「東京ローズ」の愛称がつけられた。
東京ローズの一人がこの作品の主人公でロサンゼルス生まれの日系二世アイバ・戸栗・ダキノだった。アイバはアメリカ人として育った。1941年の夏、大学院生の時に日本の叔母を訪ねたが、12月に真珠湾攻撃があり、太平洋戦争が開戦し、アメリカへ帰国することができなくなった。特高警察から日本への帰化を求められるが拒否し、アメリカ国籍を持ったまま、日本のプロパガンダ放送を手伝わされることになった。アイバには他のプロのアナウンサーとは違う持ち味があってリスナーに人気があった。
“THIS IS RADIO TOKYO’S SPECIAL PROGRAM FOR LISTENERS IN AUSTRALIA AND MY BONEHEADS IN THE SOUTH PACIFIC. RIGHT NOW I’M DULLING THEIR SENSES BEFORE I CREEP UP AND ANNIHILATE THEM WITH MY NAIL FILE…BUT DON’T TELL ANYBODY! NOW HERE’S THE NEXT WALTZ I PROMISED YOU, VICTOR HERBERT’S KISS ME AGAIN’. YOU HEARD ME!”
東京ローズの実際のアナウンスが多数引用されている。敵国兵士たちを見下しながら、からかうような口調で、しかし疲弊した兵士たちを癒すような内容。プロパガンダ放送とはいえ降伏を呼びかけるような直接的なものではなく、巧妙に企画された魅惑の娯楽番組だった。
戦後にアメリカに帰国すると、アイバは反逆罪で裁判にかけられ有罪になる。市民権をはく奪された。彼女は放送の中で連合国兵士を惑わす発言をした意識はなかった。生きていくために仕方なく放送に関わっただけで、愛国心を強く持つ女性だった。裏切り者の汚名に苦しんだが、彼女を理解するものも多く、1977年にフォード大統領の特赦で名誉と市民権が回復した。晩年には困難な状況でも国籍を捨てなかった愛国者として退役軍人会に表彰された。
東京ローズの話はNHKの番組で観たことがあったが、アメリカ人の視点で描かれたこの作品はまた違った趣がある。彼女は終始アメリカ人であり、アイバが戦った本当の相手は、彼女を東京ローズになるよう強制した日本政府というよりも、彼女をアジア人として裏切り者として扱おうとするアメリカ社会だったという印象を受けた。
東京ローズはその後映画『パールハーバー』や『父親たちの星条旗』で日本のプロパガンダとして表層的に扱われて悪役のイメージが定着してしまったので今、真実を知ってもらうためにこの作品が描かれたという解説があった。