Tokyo Junkie: 60 Years of Bright Lights and Back Alleys . . . and Baseball
『東京ジャンキー:表通りと路地裏、そして野球の60年』 ”Tokyo Junkie: 60 Years of Bright Lights and Back Alleys . . . and Baseball” by Robert Whiting, 2022
今年最初の5つ星の本は、二つの東京オリンピックに挟まれた、昭和・平成60年間の回顧録。著者は日本在住81歳のジャーナリスト、ロバート・ホワイティング。英語で海外の読者向けに書かれているが、本当にこの本を読んで楽しめる読者はこの時代を生きてきた私たち日本人だ。高度経済成長期、バブルと崩壊、そして失われた30年を私たちと同じ大衆目線から見つめてきた貴重な証言者だ。ただのノスタルジーにとどまらず、一級の日本文化論としても秀逸である。★★★★★。
ホワイティングは1962年に米軍兵士として来日し、CIAとNSAのための諜報活動に従事したのち退役し、上智大学で政治学を学び、日本人の女性と結婚した。渡辺恒雄の英語教師やヤクザの住吉会の顧問を務めた後、『ブリタニカ百科事典』日本法人で関連する英語教材を作った。1977年に書いた『菊とバット』がベストセラーになり、フリーランス・ジャーナリストとしての仕事を始めた。その後もピュリッツアー賞候補作『和をもって日本となす』(1989)、ハリウッド映画化が決定した『東京アンダーワールド』(2000)など多くのベストセラーを持つ。
ホワイティングは「ガイジン」として扱われることにうんざりしているが、一方では外国人の特権を利用し、普通の日本人であれば近づくことができない政治、野球、裏社会の深部に潜入していった。彼は若い頃は、東中野の安アパートに住み、深夜の2時に厚化粧をしたホステスの女たちや知り合いのヤクザが訪ねてくるような生活をしていたが、ジャーナリストとして成功してからは著名人と交友し、鎌倉の邸宅や豊洲のタワーマンションで暮らしている。日本の表も裏も、外も内も、底辺から頂上までも知り尽くした人物だ。
一般的に、個人が60年を回顧すると、懐古趣味的になったり、最近の出来事に影響されて歴史の遠近感が歪められてしまうものだが、ホワイティングの歴史展望は非常にバランスが取れている。彼は60年間ずっと日本にいたわけではなく、国連勤務の奥さんの転勤につきあって世界中の都市でも暮らしてきた。だからこそテレビによく出る”ガイジン”タレント以上に、日本を客観的に見ることができる。分析が示唆に富んでいる。日本の若い読者も教科書として読むべき濃い内容になっている。
何よりこの本をページターナーにしているのは切り口のユニークさだ。政治、大衆文化、野球とプロレス、裏社会という、彼がこれまで数十冊の本を書いてきたキーワードで、激動の現代史を鮮やかに整理して見せた。そして彼自身の”expatriate”(海外在住者)としての波乱万丈な個人史とリンクさせることでそれがこの上なく魅惑的な物語になった。ジャーナリスト的な批評はあるものの、ホワイティングの筆は、常に日本、東京への愛に満ちていて、日本人の読者にも強いシンパシーを喚起する傑作である。