The Trees”

“The Trees” Percival Everett, 2021

どんどん過激化する、寝不足間違いなしの犯罪スリラー。ここ数年で読んだスリラーの中で最も残虐で陰鬱だが、読み始めたら止められなかった。ラストは本当にとんでもないことになる。2021年度ペン・フォークナー賞の候補作

ミシシッピー州の田舎町マネーで殺人事件が起きる。現場には白人の成人男性と黒人の少年の死体が横たわっていた。少年の首には有刺鉄線が巻かれていた。白人の性器が切り取られており、少年の手に握られていた。ふたりが互いに殺しあったかのような不可解な現場だった。

地元警察が捜査を開始すると第2の殺人事件が発生する。現場には性器の切り取られた白人の遺体と最初の黒人少年の遺体が転がっていた。少年の遺体が安置所から盗まれて二度目の事件の現場に置かれていたのだ。州警察からふたりの黒人刑事が捜査に加わるが、彼らをあざ笑うかのように同じ手口の猟奇殺人事件が次々に発生する。

マネーは奴隷制時代の名残りのある土地だ。80年前に14歳の黒人少年ティム・エメットが白人女性に口笛を吹いたと因縁をつけられ、女性の親戚たちによって拷問の後、有刺鉄線を首に巻かれて川に沈められた事件が起きていた。今なお町の至る場所に白人至上主義団体のメンバーが蔓延っている。ときどき十字架を燃やす儀式の跡か見つかる。ドナルド・トランプの支持者があふれている。

そして中盤からは、田舎の小さな町で起きた猟奇殺人事件が、アメリカ全土へ飛び火していく。白人至上主義者のテロリズムなのか?模倣犯が発生しているのか?謎は深まる。そして白人と黒人だけでなくアジア人も巻き込まれるようになる。アメリカは人種対立をめぐり国家的な危機に陥っていく。後半は犯罪スリラーというよりSFに近い。よくぞここまでエスカレーションさせられるものだ。

あからさまな人種差別表現がいっぱいでてくる。南部訛りの英語表現が頻出する。残虐シーンも満載でR18な内容。ギリギリを攻めている感じがあって賛否両論あるかと思ったが、Goodreadsでは白人も黒人もアジア人も面白かったと高い評価をつけているようで、これはありなんだな。

ビリー・ホリデイの代表曲『奇妙な果実』は、南部州でリンチで木から吊るされた黒人の遺体が奇妙な果実みたいだと歌った悲しいプロテストソングだったが、この小説のタイトル”The Trees”は、遺体を吊るす木のこと。怖い。

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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