The Awakened Brain: The New Science of Spirituality and Our Quest for an Inspired Life

『覚醒した脳:スピリチュアリティの新しい科学とインスピレーションに満ちた人生の探求』The Awakened Brain: The New Science of Spirituality and Our Quest for an Inspired Life by Lisa Miller, 2021

2012年の夏、コロンビア大学で心理学を教えるリサ・ミラー教授は、スピリチュアリティや宗教に傾倒している人とそうではない人の精神衛生を比較した。するとスピリチュアルな人はそうでない人よりも顕著に鬱になりにくいことが分かった。fMRIの画像比較でもスピリチュアルな人の脳には大脳皮質の特定部位の肥大化が確認された。神を信じたりマインドフルネスにはまる人の方が精神が安定しているのだ。

特に子供たちにその傾向が顕著だ。強いスピリチュアリティ傾向の少年少女は40から80%も薬物依存や濫用に陥りにくい。スピリチュアリティ傾向は29%が遺伝、71%が環境で形成される。スピリチュアルな母親を持つ子供はそうでない子供と比べて5倍も鬱になりにくい。スピリチュアルな人はポジティブに世界を見る傾向があることも鬱になりにくい原因である。

ミラーは意識にはふたつの種類があると言う。目の前の目的を達成するために物事を秩序立てて管理する目的達成意識(achieving awareness)と人生をより高いレベルから達観する覚醒意識(awakened awareness)だ。ふたつの意識は脳の異なる部位を使う。目的達成意識は現実を生きるのに必要だが、鬱、不安、ストレス、渇望をもたらす。覚醒意識は世界や人生に大きな意味をもたらす。

祈りや瞑想にはまだ未解明の可能性を秘めているとミラーは言う。覚醒意識についてちょっと信じられないような研究がいくつか紹介されている。メキシコ大学ヤコブ・グリンバーグの研究では、二人の被験者を20分間同じ部屋で互いに精神的に強いつながりをもつように精神を集中させた。そして二人を別室に入れて脳波計を装着させた。しばらくの間二人の脳は同期していた。一人に強い光の刺激を与えると別室のもう一人の脳にも刺激を受けた脳波が現れる。別の実験ではハワイのスピリチュアルヒーラーと患者につながりを意識させた後に別室に入れた。ヒーラーは別室にいる患者の脳に癒しの念を送ると、患者はそれを受け取ることができた。覚醒した脳は空間を超えて繋がることを証明した不思議な実験結果だ。

リサ・ミラーは科学者であると同時にスピリチュアルの実践者でもある。科学的研究と同時に自身の体験も混ぜて語っている。だから科学の線引きが曖昧な部分がある。しかし覚醒した脳が利他主義、隣人愛、自己愛、一体感、道徳意識を喚起するという意見は納得がいった。それは現代人が宗教と一緒に失ったも美徳のリストだ。教会に行って神に祈る時の脳の状態は、マインドフルネスで得られるとの状態や、山にハイキングに行ってリラックスした時の脳の状態と同じだそうである。宗教と切り離した形で、エビデンスベースの方法論で、脳を覚醒させる方法はもっと探究すると良さそう。

daiya

デジタルハリウッド大学教授 メディアライブラリ館長。多摩大学客員教授 ・データセクション株式会社顧問。書評家・翻訳者。

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