Erewhon

1872年出版、日本は明治維新の真っ只中に書かれたシンギュラリティSF小説。

1835年生まれで、高名な教育者の司教を父に持つサミュエル・バトラーは、親から遺産分与を早めにもらい、イギリスの植民地になって十数年のニュージーランドに移住した。牧畜で暮らしていたが、ある日町の小さな本屋でダーウィンの『種の起源』を手に取った。彼は進化論の熱烈な信奉者になった。新聞にダーウィンを称賛する寄稿をし、ダーウィンの家を訪問して歓待された。

続きを読む

Babel, Or the Necessity of Violence: An Arcane History of the Oxford Translators’ Revolution

決定打きた!2022年最高の小説はこれだ!超ド級の言語の力をめぐる幻想ファンタジー。震えた。打ちのめされるようなすごい本だ。★★★★★。

1828年の中国広東、母親をコレラで亡くした少年は、後見者になったオックスフォード大学の言語学教授リチャード・ラヴェルによってイギリスに連れてこられた。少年は教授に英語の名前に改名するように命じられ、ロビン・スイフトと名乗るようになった。ロビンは教授の家でラテン語、古代ギリシア語、英語、中国語の猛特訓を受けてすべての言語に流暢になった。そしてオックスフォード大学の王立言語学研究所”バベル”へ入学した。そこには世界中から多様な言語の研究者が集められ、”シルバーワーキング”という魔術に取り組んでいた。

続きを読む

The Trees”

どんどん過激化する、寝不足間違いなしの犯罪スリラー。ここ数年で読んだスリラーの中で最も残虐で陰鬱だが、読み始めたら止められなかった。ラストは本当にとんでもないことになる。2021年度ペン・フォークナー賞の候補作

ミシシッピー州の田舎町マネーで殺人事件が起きる。現場には白人の成人男性と黒人の少年の死体が横たわっていた。少年の首には有刺鉄線が巻かれていた。白人の性器が切り取られており、少年の手に握られていた。ふたりが互いに殺しあったかのような不可解な現場だった。

続きを読む

The Kaiju Preservation Society

腹に天然の原子炉を持つ怪獣たちが大暴れ。ヒューゴー賞作家による日本の怪獣映画へのオマージュたっぷりのSF小説。換骨奪胎された異次元のゴジラ・モスラが楽しい。ITベンチャー要素もあり。間違いなくドラマ化されそう。

2020年、パンデミックがニューヨークを襲った。フードデリバリーベンチャーのエグゼクティブ、ジェイミー・グレイはCEOから突然解雇を言い渡され、末端の配達員として生計を立てている。配達先で古い知り合いのトムと出会う。トムは勤務先のKPSというNPOでポストに空きがあるとジェイミーを誘う。

続きを読む

The Fervor

第二次世界大戦下のアメリカ・アイダホ州で、日系アメリカ人メイコ・ブリッグズと幼い娘アイコは強制収容所に入れられている。メイコの白人の夫ジェイミーは軍のパイロットとして出征している。両親ともに日本人の子供ばかりの収容所内でアイコはいじめにあう。アイコは母から聞いた日本の妖怪や幽霊をノートに描いて孤独な時間を過ごす。

収容所で不思議な伝染病が発生する。感染した人々は正気を失って凶暴になる。隣人を殺傷するものも現れた。封鎖された収容所の中でメイコとアイコは恐怖に震えるが、なぜか二人は伝染病には感染しない。不思議な免疫を持っているかのようだった。

続きを読む

The End of Men

2025年、男性のみに感染する致死性の感染症がスコットランドで発見された。現地の医師アマンダ・マクリーンは即座に警告を発したがヒステリーだとして無視された。瞬く間にウィルスは世界へ広がり最悪のパンデミックが発生した。世界の男性の90%が死亡した。世界人口は半分になり女性社会になる。

物語は第一発見者のアマンダ、社会歴史学者のキャサリン、諜報機関アナリストのドーン、ワクチンの研究者のエリザベスら、複数の女性の視点で語られる。パンデミックの始まりから収束までの時系列の報告というスタイルは、ゾンビ小説「WORLD WAR Z」に強い影響を受けたものだ(あとがきで著者がそう告白している)。

続きを読む