For Who the Bell Tolls: One Man’s Quest for Grammatical Perfection
『誰のために鐘は鳴る?完璧文法への孤独な探究』 “For Who the Bell Tolls: One Man’s Quest for Grammatical Perfection” by David Marsh, 2013
“For Whom the Bell Tolls”(『誰がために鐘は鳴る』)には現代英語から姿を消しつつある whom が使われている。そのmの字を消そうとしている表紙がすごく気になって手に取った。このmは消してもいいのか?結論としてはこのトーンではwhomが望ましい、だった。
編集者歴40年、ガーディアン紙のベテラン編集者による英文法エッセイ集。現代の文章を例にウィットとユーモアに富んだ考察で、文法解説の要点も押さえている。楽しく勉強になった。生きた英語をアップデートできる。
ローリングストーンズの”I can’t get no satisfaction”はまったく満足感が得られないという趣旨だが文法的には間違っている。厳密に解釈するといくらかの満足感が得られるという意味になってしまう。しかしこうした二重否定は会話の中でよく使われている。
関係代名詞のthatとwhichは同じで省略してもよいと習ったが、本当のところはどうなのか?新聞ガイドラインではthatに続くのは定義で、whichに続くべきは新たな追加情報であるべきだと。そしてwhichの前にはコンマがあるべきで、この場合の関係代名詞の省略はできない。
文章の最後が前置詞で終わるのは格好悪いとされる。ウィンストン・チャーチルはこれを皮肉って “that is the type of pedantry up with which I shall not put”? と言ったとか、言わなかったとか。
“God save the Queen”(女王陛下万歳)はなぜ”god saves the Queen”ではないのか?答えはこれは”conjunctive”(仮定法・叙想法)なのだ。助動詞が隠れている。conjunctiveは英語をややこしく、そして奥深くしている。
A, B and CであるべきかA, B, and Cなのか。後者のコンマはオックスフォードコンマと呼ばれる。単純な単語の並列時には使わなくてもよいが、A, B and C and D(B and Cが1アイテムの時)と書くと混乱するので、A, B and C, and Dと書くべきなのだと。
“different from”だと習うが、最近は”different to”や”different than”も使われている。thanはアメリカ英語でイギリス人は首をかしげるかもしれないが、thanのほうがしっくりる文脈が多数ある。 “a false sense of security which makes drivers behave quite differently on motorways than on ordinary roads”など。
“He ran fast”なのに”He ran slowly”。英語は不合理である。
“Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo”. は正しい英語の文章である。分かる?訳せる?
“the gostak distims the doshes”は意味がない英語だが英語話者は品詞を感じ取り、何かを読み取ろうとしてしまう。
『銀河ヒッチハイクガイド』より”And all dared to brave unknown terrors, to do mighty deeds, to boldly split infinitives that no man had split before – and thus was the Empire forged”.(そして誰もが未知の恐怖に敢然と立ち向かい、強大な力を発揮し、これまで誰も割ったことのない不定詞を大胆に割り、こうして帝国が築かれたのである)。分離不定詞問題は常に議論のテーマである。分離不定詞を割るなんて言葉を初めて知ったが。
著者の40年の編集者経験から作成した紛らわしい言葉の一覧(コメント付き)は圧巻だ。そして現代のポリティカルコレクトネスに対応した英語の変化のコラムもとても参考になる。