Monsters
“Monsters” Barry Windsor-Smith ,2021
震えた。70年代にコナン・ザ・バーバリアンやウルヴァリンを手掛けた大御所コミック作家バリー・ウィンザースミスが35年間をかけて描いたライフワークを遂に出版。大判380ページのグラフィックノベル。精神性、哲学性、社会性のどれにおいても底知れぬ深みがある。凄まじいパワーを持つ傑作だ。昨年の最高作品に選ぶファンもいる( https://www.youtube.com/watch?v=Ob86xcv7ASw&t=1314s )。★★★★★。
1964年、天涯孤独の若者ボビー・ベイリーは米国陸軍に志願した。採用担当マクファーランド軍曹は、身寄りのない志願者を探していた軍の秘密研究機関プロジェクト・プロメテウスにボビーを紹介した。科学者たちは超人を作る実験をしていた。ボビーはその実験材料に選ばれたのだった。ナチスが開発した遺伝子操作技術によって超人ハルクのようなモンスターに変身させられる。何が起きているかを知ったマクファーランドはボビーを救出に向かう。
ここまでは普通のモンスター系アメコミの導入なのだがその後が違う。このモンスターは戦わないのだ。ボビーが暴れるシーンはほぼない。彼はおぞましい姿に変えられて絶望するだけの哀れな被害者なのだ。タイトルがthe monsterではなくmonstersであることに深い意味がある。これはボビーの話ではなく、彼をモンスターの姿に変えてしまった恐ろしい人間たちの物語である。
ボビーの現在形の物語と共に戦時中のボビーの両親の物語、そしてこの物語で重要な役割を果たすもうひとりの人物の物語が並行して語られる。なぜ狂気の研究が戦後も続けられてしまったのかが明らかになっていく。彼らの人生は意外な接点でつながっていた。伏線をすべて回収してくれるプロットも見事だ。
バイオレンス度、グロテスク度、スプラッター度はどれも強烈。手足がぶっ飛んだり内臓が露出したりする。暴力表現に慣れていない読者は最後まで読めないだろう。しかしそういう露骨な表現よりも、非常に高いレベルの精神性、哲学性が印象に残った。現代の『フランケンシュタイン』だ。アメコミの金字塔になる。