Beautiful World, Where Are You
“Beautiful World, Where Are You”, Sally Rooney, 2021
世界最大の読書コミュニティGoodreadsで2021年度のフィクション部門第一位に!世界で最も多くの人に支持された作品。
「社会現象」と呼ばれるほど欧米の若い世代の一部(Z世代+一部ミレニアル世代、主に白人特権層)に支持されているアイルランドの作家サリー・ルーニーの最新作。ブッカー賞候補になった前作”Normal People”は「なんで私は普通になれないんだろう?」と思い悩む10代男女のぎこちない恋と成長の物語だった。
“Normal People”は露骨なスクールカーストと卒業後の立場逆転というプロットが物語をドライブしていた。本作では登場人物は30歳前後の男女4人で今回もまた階級意識をめぐる葛藤がコアにある。
若くして成功した小説家のアリスは郊外の町に引っ越してきた。出会い系アプリを通して工場で働くフェリックスと出会う。彼女の豪邸に招かれたフェリックスは経済格差を意識し、彼女の会話の端々にマウント感を感じて関係を進めることに尻込みしてしまう。
アリスの親友アイリーンは出版社で働く編集者だ。幼馴染みで5歳年上のサイモンに惹かれている。サイモンは長身でハンサムで兄のような存在だった。サイモンにはつきあっている女性がいるらしく、アイリーンとの関係は友達以上恋人未満の状態にある。
アリスとアイリーンは無二の親友だがアイリーンは急にセレブになったアリスに対して劣等感を感じる時がある。お互いは惹かれあっているのに素直になれない恋人たちの階級意識をめぐる葛藤の物語だ。アリスのモデルは若干30歳でセレブ作家になったサリー・ルーニー自身である。
官能的な性交シーンがたくさん出てくる。それがルーニーの人気の秘密なのは間違いない。だがそれを上回る最大の魅力が登場人物のセリフだ。会話、メール、チャット、手紙という形式で4人は心情を率直に表現する。あまりにもピュアでストレートな若者の思考に、50歳の読者としてドキドキした。エモいというのはこういうことか。21世紀の小説というよりも『アンナ・カレーニナ』や『偏見と高慢』のような19世紀の恋愛小説のような古風な率直さがある。
彼らが議論するのは経済や社会の格差、環境問題、愛とセックス、宗教という硬派な問題だ。こうした問題に対する向き合い方が恋人の関係にも入り込んでくる。無宗教のアイリーンはサイモンが教会通いで本気で神を信じているみたいだけど私で大丈夫だろうかと悩む。アリスは地球温暖化や地域紛争で世界はとんでもないことになっているのに私は恋愛小説なんて書いていていいのだろうかと悩む。
物語としては前作”Normal People”の方がまとまっていた。”Beautiful World, Where Are You”は2組のカップルがくっつくまでが遠回りのしすぎだ。クライマックス感がなかった。しかしZ世代の生の声を聴けるという点ではこちらの方がよく出来ている。世代による違うものと変わらないものが見えてくる。
昔は若者の感性をのぞくのにジョン・グリーンを読んでいたけれどグリーンも40を過ぎてしまい私と感性が変わらなくなってしまった。これからは若者観測小説としてサリー・ルーニーを読む。★★★。