Glory
ブッカー賞ノミネート “Glory” by NoViolet Bulawayo, 2022
“This is not an animal farm but Jidada with a -da and another -da!”
”ここは動物農場ではなく、ダともうひとつダがつくジダダだ!”
物語冒頭の演説の中で、ジダダ国の独裁者オールドホースの妻”ドクター・スイート・マザー”が否定しているが、”Glory”は現代のジンバブウェを舞台にした『動物農場』だ。ジンバブウェでは2017年に副大統領(75歳、あだ名がワニ)主導の革命が起き、1980年より37年間に渡って独裁統治を続けたロバート・ムガベ大統領(94歳)が辞任した。この独裁者の妻のモデルはムガベの妻グレース夫人だ。国民は革命によって民主化と経済の停滞が回復することを願ったが、新たな高齢の独裁者の下で混乱は続いている。
ジダダ国民として人間は一人も登場しない。登場するのは馬、豚、牛、驢馬、山羊、鰐、犬、猫、孔雀などの動物で、彼らは服を着ていて、人間のように喋り、二足でも四つ足でも歩くことができる。それぞれの動物の特徴を使って人物像を風刺する。
ジンバブウェの歴史を調べていくと、風刺されている登場人物たちを次々に発見できる。ムガベ夫人はジンバブエ大学に3カ月通っただけで博士号を授与された。ムガベはオールドホースと同じように国旗のカラーのスカーフを常に着用していた。私が気がついていない現実への風刺がたくさんありそうだ。
物語はオールドホースの統治40周年式典から始まり、ドクター・スイート・マザーの独白の後に、この物語の語り手である若い山羊の娘ディスティニーが登場する。彼女はひどい状況の母国を10年間離れていたが、革命を見るためにに帰国して母の家を訪れる。しかし新しい政府への期待もつかの間で、独裁者が倒されても別の独裁が始まっただけなのを知って失望する。
ジダダにはリアルとバーチャルの二つの側面がある。現実のジダダでは人々は自由はなく、独裁者に搾取され、何を買うにも長い列に並ばされているが、ネット上のもうひとつの国(Other Counrty)ではTwitterやYouTubeを使って情報が飛び交っている。Twitterのスレッドで構成されたページもある。
言葉のリズムが愉快な文体だ。”tholukuthi”はジンバブエの言葉で「わかるでしょう」の意味だそうだが、連発して独特のエキゾチックな口語リズムを作り出す。ドクター・スイート・マザーの口癖は”Jidada with a -da and another -da!”で、新たな独裁者は”make Jidada great again”といい、虐げれらている国民は “I can’t breathe.”を1ページに渡って繰り返す。
『動物農場』は今や古典だが、発表当時は同時代の政治への痛烈な風刺だった。それと同じように”Glory”は現代のジンバブエの政治を風刺している。この作品はブッカー賞にノミネートされた。彼女のノミネートは2回目だ。受賞すれば初のアフリカ女性作家の受賞になる。世界にジンバブエという国を身近にする傑作だ。